今になって思うと、すべての道がつながっていた
〜証券営業、上場企業経理、税理士、コンサル、そしてAI〜

経営情報学部13期生の五十嵐英雄さん。
税理士であり、 現在は金融×不動産のFintech(金融技術)系ベンチャーで財務・ファイナンスの責任者として、企業価値の向上に取り組む傍ら、全社的なAI活用を推進するプロジェクトもリードする。新卒で証券会社に入社し、リテール営業を経験。その後、上場不動産企業の経理へ転じ、上場企業の決算、連結、開示などに携わりながら、税理士資格を取得した。さらに戦略コンサルティングファームでは、会計・財務領域のコンサルタントとして活躍し現在に至る。
一見すると異なる仕事を渡り歩いてきたように見えるが、その根底には「数字を通じて、経営に近い仕事がしたい」という一貫した思いがあった。多摩大学で触れた実学、社会人になってからの学び直し、大学院進学、税理士試験への挑戦、コンサルティングファームで得た刺激。そしてAIによって広がる新たな可能性。
秋風感じる8月終わりのある夜、多摩大学同窓会の鍋田修彦副会長が、五十嵐さんにこれまでのキャリアとこれからについて訊いた。
実務家から「経営の話」を聞ける大学だと思った
鍋田副会長:
卒業生の皆さんには必ず伺うのですが、なぜ多摩大学を選んだのですか?
五十嵐さん:
入学時点では、この先に何をするのか、正直なところ明確には決まっていませんでした。ただ、将来的には会計など、経営に近い領域で働きたいなという思いがありました。当時から多摩大学は、実務家を中心とした講師陣が特徴でした。経営の現場にいる方々から実際の話を直接聞ける。その点に惹かれて選びました。
鍋田副会長:
ご出身は東京ですか。
五十嵐さん:
世田谷区の生まれです。小田急線で永山まで通っていました。
鍋田副会長:
志望動機にもなった「学業」の方はいかがでしたか?(笑)
五十嵐さん:
「そこそこ」です(笑)。ただ、授業で聞いた経営の話は、今でも一部が頭に残っていて、ポートフォリオマネジメントの話がとても印象に残ってますね。社会人になってからいろいろ学び直す中で、同じような考え方が出てきて、「これは大学時代に聞いたな」と記憶がよみがえりました。あらためて、学びはつながっているのだと感じましたね。
鍋田副会長:
卒業してから皆さん同じことおっしゃいますよ。特に会計系の授業は、今思うとすごい質の高いものばかりだったと。ちなみに1年生の時、サッカーサークルの「嵐」を立ち上げたとのことですが、学内のサッカーサークルといえば、FC DELTAがあります。なぜにまた、同じようなサークルを創ったのですか?
五十嵐さん:
うーん、なんとなくです。自分でやりたかったのかな。アリーナでサッカーのうまそうな学生を見つけては、勧誘していました(笑)
鍋田副会長:
ハハハ。人の巻き込み力をお持ちだったのですね。大切なことですよ。
社会人になってからの方が、一万倍勉強した
鍋田副会長:
就職活動では、どのような軸を持って臨みました?
五十嵐さん:
在学中は、人生についてそれほど真剣に考えていなかったと思います。就活の時も業界を絞っていたわけでもありません。それでも、いろいろな会社の業績や決算、金融の動きを知りたい、経営に近いポジションで働きたいという思いはありました。いろいろ選んでいく中で、最終的には証券会社を選びました。
鍋田副会長:
新卒で入社した日興コーディアル証券では、配属された支店で法人リテール営業を担当されていたと。
五十嵐さん:
そうです。新規開拓を中心にリテール営業を経験しました。企業の業績や金融を理解したいと思って入社しましたが、本社部門ではなく支店営業でした。ビジネスマナーや証券業務の基礎、お客様との関係の築き方など、社会人としての土台を身につけることができました。貴重なキャリアだったと思います。
鍋田副会長:
当時はリーマンショックでいろいろ大変だったでしょう?
五十嵐さん:
その真っ只中でしたね。
ただ、その頃からそうでしたが、学生時代と比べれば、社会人になってからの方が一万倍くらい勉強しました。業務がどんなに忙しくても、証券外務員の資格などたくさん取得すべきものが多くて。後でお話ししますが、その後アクセンチュアに入った時はTOEICも所定のスコアを取らなくてはいけませんでしたね。
鍋田副会長:
そんな資格勉強もそうですが、日々の仕事においても勉強しながら実務力を高めていったわけですね?
五十嵐さん:
そうですね。同じ内容でも、実務を経験した後に学ぶと、見え方がまったく違います。今、大学時代の授業をもう一度受けたら、当時とは違う発見があるように思います。
数字を通じて経営に近づくため、経理へ転身
鍋田副会長:
証券会社で働いたのち、不動産会社の大東建託へ転職し、営業職から経理職へ大きくキャリアチェンジしました。きっかけは何だったのですか?
五十嵐さん:
20年後、30年後にどのような働き方をしたいかを考えた時、リテール営業の延長線上ではないなと感じたのです。私はもともと数字が好きで、数字から企業の業績を捉え、「将来どうしていけばいいのか」を考えたい。経営に近い立場で数字を使って仕事をしていきたいという思いがありました。そこで、将来は税理士やCFOのような役割を目指し、経理・会計の領域へ進もうと決めました。
鍋田副会長:
転職先に大東建託を選んだ理由は何ですか?
五十嵐さん:
一つの条件は上場企業であることでした。小さな会社で幅広い業務を経験する道もありますが、上場企業の経理には、開示、決算、連結など特有の業務があります。それらを一通り経験したいと思っていました。
もう一つ重視したのは、継続的に高い収益を上げられる会社であることです。
経理は、自分で直接売上をつくる仕事ではありません。だからこそ、会社や事業に、確実かつ継続的に収益を生み出す力があるかを見ながら探していました。いくつかいただいたオファーの中から選んだのは大東建託でした。
鍋田副会長:
大東建託では、どのような業務を担当されていたのですか?
五十嵐さん:
本社の経理で、仕訳から連結、四半期決算、開示、予算の一部管理、経営企画やIRとの連携まで、幅広く経験しました。経理の実務は、本当に楽しかったですね。不動産事業への理解も深まりました。大東建託は、私のキャリアの中で最も長く勤めた会社です。今の仕事にも生きている実務の基盤をつくっていただき、感謝しかありません。
過去の数字を、将来の意思決定に生かす
鍋田副会長:
経理の実務を経験する一方で、税理士資格を目指されていたと聞きました。経理職として働く上で、なぜ資格が必要だと考えたのですか。
五十嵐さん:
証券営業から経理へキャリアチェンジすると決めた時点で、税理士資格は視野に入れていました。この領域で先々まで戦うためには、最低限、税理士くらいは取っておかなければならないと考えたのです。学生時代であれば、公認会計士という選択肢もあったかもしれませんが、すでに働いていましたし、タイミング的には遅いなと思いました。税理士試験は科目合格制で、仕事を続けながら一科目ずつ挑戦できることも選んだ理由の一つです。
鍋田副会長:
30代から士業を目指したと。資格取得までには、どれくらいかかりましたか?
五十嵐さん:
約10年です。合格する年もあれば、不合格の年もありました。一年に一度しか受験機会がないので、長くかかりましたね。仕事をしながら勉強を続け、家庭もある中での挑戦でした。家族の協力は本当にありがたかったですよ。大東建託に在籍している間に資格を取得でき、それが次のキャリアへ踏み出すきっかけになりました。
鍋田副会長:
税理士の資格取得を途中で諦める人は多いです。本当めげずに頑張りましたね!
私自身何人もの税理士を知っていますけれど、お話を伺っている限り、五十嵐さんは、いわゆる「税理士らしい税理士」とは少し違う印象があります。税務会計だけでなく、経営会計や管理会計もしっかり理解されているわけですし。
五十嵐さん:
私自身、従来型の税理士像にとどまりたくなかったのです。
もちろん、過去の数字を正しく扱うことは重要です。ただ、それだけではなく、その数字を将来にどう生かすのか、そこからどんな課題が見えるのかを考えたい。事業を理解した上で、数字を経営の意思決定につなげられる専門家でありたいと思っています。
経理部長とCFOは「まったく違う」
鍋田副会長:
経理職の最終ゴールは、どこだと思いますか?
五十嵐さん:
人によって答えは違うと思います。自分で税理士事務所を立ち上げる人もいれば、監査法人やコンサルティングファームでパートナーを目指す人もいる。ただ、事業会社で考えるなら、最終地点はCFO(チーフファイナンシャルオフィサー)なのかもしれません。
ただ、経理部長とCFOはまったく違うものだと考えています。経理の領域にとどまるのではなく、財務、事業、投資家、企業価値まで視野を広げなければ、CFOにはまずなれません。経理の中にとどまる人と、そこを打破して領域を広げる人では、キャリアも大きく変わります。私は経理の枠から飛び越えていきたい側でした。
鍋田副会長:
その思いが、コンサルティングファームへの転職につながったのですね。
五十嵐さん:
大東建託で経理の仕事を一周も二周も経験し、税理士資格も取得しました。その時、次も同じような上場企業の経理職を選べば、自分がこの先どうなっていくかはある程度見えていました。もちろん、その道も一つの選択です。ただ、見えている延長線上ではなく、これまで培った会計・経理の経験を生かしながら、もっと広い領域で自分を試してみたいと思いました。それで、コンサルティングファームというまったく違う環境を選びました。
ファイナンスとテクノロジーの間に立つ
鍋田副会長:
アクセンチュアでは、どのような仕事をしたのですか。
五十嵐さん:
会計・ファイナンス領域のコンサルタントとして、マネージャーを務めました。クライアントは大企業が中心で、ファイナンス業務をテクノロジーによって効率化したり、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシングセンター)を含めた業務改革を支援したりする仕事でした。
ファイナンスの現場とテクノロジー部門では、使う言葉も考え方も異なります。その間に立ち、現場の課題や要望を整理して、システムに必要な要件へ翻訳する役割を多く担いました。もともとテクノロジーにも関心があったので、会計と技術をつなぐ仕事はとても面白かったですね。
鍋田副会長:
非常に濃ゆい経験をされたとか?
五十嵐さん:
とても濃密な経験でしたね。
刺激を受けたのは一緒に働く人達です。アクセンチュアには、それぞれの世界で「エースで四番バッター」だったような人が集まってきます。私自身も、それまでの職場で経験を積み、「自分ならやれる」という思いで入りました。でも、いざ入ってみたら、そんな人がゴロゴロいる。優秀な人材がたくさんいる、今まで経験のない環境でした。
クライアントも、日本を代表するような企業の役職者です。高いフィーを払っているからこそ、「外部のコンサルタントに何ができるのか」と厳しく見られます。社内にもクライアントにもレベルの高い人がいる中で、自分はどんな価値を出せるのかを毎日真剣に考え続けました。その後の成果や得たことからして、自分の選択は間違っていなかったと思います。
鍋田副会長:
そんなエキサイティングな環境を離れて、再び事業会社、それもベンチャー企業を選んだのはなぜに?
五十嵐さん:
アクセンチュアには、自分のキャパシティを広げたいという思いで入ったわけです。
当初からその経験を最終的に事業会社で生かして貢献したいという考えを持っていました。そこでご縁があったのが、現在のFintechのベンチャーです。そちらで財務・ファイナンス部門のマネージャーとして、業績と企業価値を高めるための仕事に取り組んでいます。大東建託で得た不動産と会計の実務、アクセンチュアで得た業務改革とテクノロジーの視点が今の仕事につながっています。

AIで専門職はなくなるのか?
鍋田副会長:
現職では、全社的なAI活用を推進するプロジェクトのリーダーも務めているそうですね。
五十嵐さん:
社内でAIをどう有効に活用していくかを検討し、実践する役割を任されています。以前からAIを使っているつもりではありましたが、仕事として深く学ぶようになり、自分の中で一気にブーストがかかりました。仕事以外でも、個人でAIを使ったアプリ開発や情報発信に取り組んでいます。
鍋田副会長:
世の中でもたくさん議論されていますが、AIの進展によって、コンサルタントや経理職は減ったり、なくなったりすると思いますか?
五十嵐さん:
単純になくなるとは考えていません。コンサルティングファームには極めて優秀な人が集まっています。そんな彼らは、AI社会になれば、そのAIを使って何ができるか、人間だからこそどんな付加価値を生み出せるかを考え抜きます。コンサルタントという仕事自体がなくなることはないと思います。
一方で、AIをどの程度使いこなせるかは、すでに大きな差が生まれています。チャット感覚で質問する段階の人もいれば、AIエージェントに仕事を任せたり、アプリを開発したりする人もいる。最先端の使い方や、これまでにない活用方法を考えられる人の価値がますます高まっていくでしょう。
経理も同じです。従来の経理業務の範囲にとどまる人と、会計数値やAIなどのツールを使い、経理という領域を越えて新しい価値を生み出す人との二極化は進むと思います。
40代で感じたこと。「可能性は無限に広がる」
鍋田副会長:
これから挑戦してみたいことはありますか?
五十嵐さん:
40代の今、これほど大きな変化が起きるのかと感じています。現職へ移って、早速AIのプロジェクトを任され、アプリを作り、情報発信も始めたわけです。これまで想像していなかったことが、次々とできるようになっています。
もちろん、これまで積み重ねてきた会計・財務の専門性や、現在の仕事という足元があるからこそ、新しい挑戦もできます。その上で、今は可能性が無限に広がっていると感じています。将来、自分で事業を始めることがあってもおかしくない。まだ具体的に決めているわけではありませんが、人生の選択肢は以前より確実に広がっています。
鍋田副会長:
証券営業、上場企業の経理、税理士、コンサルティング、そしてAI。一つひとつは異なる経験ですが、時系列でお話を伺っていると、20年以上前に多摩大学の経営情報学部で学んだことにもつながっていますね。
五十嵐さん:
まさにそうですね。当時は将来のためにすべてを計画して走っていたわけではないのですが、今回このインタビューの打診をいただいたのをきっかけに振り返ってみたら、すべての道がつながっていたという…。
多摩大学に入ってよかった
鍋田副会長:
卒業後も、大学時代のお仲間との交流が続いているそうですね。
五十嵐さん:
今でも同級生とはよく会っています。本当に仲がいいんですよ。
ただ、懐かしいだけの話なら、ここまで長く関係は続かなかったはず。幸い、私の周りの同期はそれぞれの分野で経験を積み重ねて頑張っている人が多い。会うたびに成長を感じ、お互い刺激を受けています。同級生が頑張っているのを見ると、「自分ももっと頑張ろう」と思うし、自分が少し天狗になりそうな時は指摘を受けることもありました。別の領域で成長している仲間と会うことで確実に視野は広がります。それでいて、20歳の頃の話でも笑い合える。懐かしさと現在進行形の刺激、その両方があるからこそ関係が続いているんじゃないかなと思います。

川崎・元住吉で大人気の焼鳥屋「鶏太」で、同期の店主(左前)たちと。
鍋田副会長:
いいですね!そんなお仲間にぜひお会いしてみたいです。同窓会があること自体知らないと思うので。
最後にお聞きしたいです。多摩大学へ進学して良かったですか?
五十嵐さん:
良かったですね。大学時代に触れた経営の考え方は、社会人になって学び直す中で再びつながりました。そして、今もお互いに成長を刺激し合える仲間に出会えた。多摩大学で得たことは、卒業してちょうど20年経った今に生きています。
鍋田副会長:
そう思うと、経営情報学部って、時代が移ろうとも王道の実学領域なのかもしれない。
五十嵐さん:
ほんとそう思います。
そうそう、今の多摩大学はどんな感じになっているのですか??
実は会社勤めの傍ら、他校の大学院にも進んで修士号を取りました。税理士資格も目指していたので、30代はかなり回り道をしました。でもこれだけは自信をもって言えます。「腰を据えて勉強した」。もし学生の皆さんとお会いする機会があるのなら、ぜひ得意の会計を教えてみたいし、AI絡みで何か一緒にやってみたいと思います。
鍋田副会長:
同窓会で寄付講座、先輩こんにちは!のような機会をつくらないといけないですね。先輩方と接する機会がないまま卒業してしまいそうな現役生にとっても視野が広まるはず。ぜひご一緒にやりましょう!
【五十嵐英雄さんプロフィール】
多摩大学経営情報学部13期生。
2001年に多摩大学入学。春田尚徳ゼミ出身。
卒業後は、日興コーディアル証券株式会社(現・SMBC日興証券)に入社。支店にてリテール営業を担当。その後、大東建託株式会社に転職。経理に従事しながら、税理士資格を取得。アクセンチュア株式会社でコンサルタント・マネージャーを経て、現在はFintechベンチャーにて財務・経営企画の責任者を務める。
【編集後記】
五十嵐さんの経歴を初めて見た時、異なる領域を渡り歩いてきた人だと思った。だが、話を訊くうちに、その歩みには一本の軸が通っていることがわかった。
「数字が好き」「経営に近い仕事がしたい」。学生時代に芽生えた思いを起点に、証券営業で金融と顧客を知り、不動産会社で会計と事業を学び、10年をかけて税理士資格を取得した。さらに、見えていたキャリアの延長線を離れ、コンサルティングファームでファイナンスとテクノロジーの間に立った。現在は、それらの経験をベンチャー企業の企業価値向上とAI活用へつなげている。
「経理部長とCFOはまったく違う」という言葉も印象深い。数字を正確にまとめるだけでなく、事業を理解し、将来の意思決定につなげる。専門領域に閉じず、隣の領域へ踏み出す。その積み重ねが、五十嵐さんのキャリアを形づくってきた。
「社会人になってからの方が、学生時代の一万倍くらい勉強した」という言葉も率直だった。学生時代には理解しきれなかった学びが、実務を経て意味を持ち始める。大学での学びは、卒業と同時に完結するものではない。何年も後に経験と結びつき、仕事を支える知恵になることがある。
40代の今、AIという新しい道具を手に「可能性は無限に広がる」と語る五十嵐さん。キャリアは、過去の延長線上だけにあるのではない。年齢にかかわらず学び、領域を越え、次の可能性を自ら広げていく。その姿勢が強く心に残った、夏の夜のインタビューだった。
五十嵐さんのnote(ひで先生|ファイナンス×コンサル×AI🤖の実務家)https://note.com/prime_snail8275

インタビュー実施日:2026年8月
編集:経営情報学部7期生・鍋田修彦(同窓会副会長)
