「大卒と高卒の違いが分かった4年間」 山本 法史(5期生)

大卒と高卒の違いとは何か。
この問いに明確に答えられる人は少ないであろう。
私は5期生で、北矢行男教授のゼミで学んだ。
当時の北矢ゼミは3年次に「ゼミナール経営学入門」4年次に「事業計画」をもとに議論をしていた。
私は黙っていることが出来ない性格だったので、ゼミではよく発言した。
そして、論理矛盾や詰めの甘さを北矢先生によく指摘され、論理的な議論のトレーニングを厳しくして頂いた。
大卒と高卒の違いはまさにこの「論理的な議論のやりとり」をトレーニングしたかどうかであると思う。
社会人になって責任ある立場でこのトレーニングはなかなか出来ない。
大学生という身軽な立場でこのトレーニングの機会に巡り会えたことを幸せに思う。
そして大学を卒業するということは、このトレーニングを積んだという証だと思っている。
その理由を以下で説明したい。

私の今の商売は社会保険労務士である。
社会保険労務士とはどんな仕事か。
正確に理解されている方は少ないと思う。
仕事は、社会保険や労働保険の手続きの代理、給与計算といった人事部門のアウトソーシング、就業規則をはじめ社内諸規程の整備、労働組合との交渉や個別の労働者との解雇や労働条件に関する問題での交渉。当然労働側に立つ先生は会社との交渉になる。社会保険労務士法が改正され、一定の条件の下で、相手方との和解交渉や和解契約の締結といった今迄弁護士の独占業務だった権限が司法制度改革の一環により社会保険労務士に付与された。法律専門職なのである。

この職業を志した理由は父の跡を継ぐ為。
私が継いだときは3名の職員だったが、今では12名の職員がいる東京都においても大きい事務所に分類される。 かなり頑張った。

では経営情報学部出身で経営戦略論のゼミ出身の私が、なぜ法律専門職となって法学部出身者とやりとりが出来るのか。
当然民法や民事訴訟法といった法律の基礎知識は殆ど無く、必死に勉強をした。
法学部に入っておけば良かったと思う時期もあった。
しかし、はじめに述べた北矢ゼミでの「論理的な議論のやりとり」のトレーニングが非常に役に立った。
論理的思考は戦略的思考であり、それは法的思考であるというのが私の結論である。
知識は志さえあれば後からついてくる。
法律専門職にとって大切なことは知識より、論理的にものごとを組み立て、それを自らの言葉で主張し、まとめていくという能力である。
この基礎的な能力を北矢先生の指導の下にトレーニングが出来た。

今では弁護士と連携して経営者側の立場に立って労働事件に関与することが多い。
その弁護士と対等に連携出来ることは、労働法に関する知識と論理的な議論のやりとりが出来るという基礎能力があって、経験が積めたことが非常に大きいと思う。
大学時代にしか出来ない経験とはたくさんあると思う。
しかし私にとってかけがえのない経験とは北矢ゼミでの「論理的な議論のやりとり」であった。

法律職に限らずこの経験はどんな局面でも役に立つと思う。
在学生の皆さんは是非ともゼミにおける議論に積極的に参加してもらい、このトレーニングを積んで欲しい。