「彼女(彼)、大学の後輩なんだよね。」 内藤 史子(5期生)

内藤 史子(5期生)


「彼女(彼)、大学の後輩なんだよね。」
営業中、何度となく聞かされたこの言葉。場所はバンコクだったりクアラルンプールだったりシンガポールだったり。日本を離れた私が営業して回っているのは、日本語による現地のビジネス情報。高額商品ではない上、あれば便利だが無くて困るものでもない。まして契約単位は法人ごと。会社の経費で支払えばいいので、自分の財布が傷むことも無い。なので営業はマメなフォローと粘り、そしてフットワークの良さが成績に現れると思っていた。生来の口のうまさも手伝って、それなりの営業成績を取っていたつもりだったのに。時々出会う「大学ネットワーク」の壁。出身大学の同窓ネットワークを活かし、お付き合い営業を展開する競合他紙を目の当たりにするたび、 多摩大学の規模の小ささを恨めしく思ったものだ。

海外に出た日本人が人脈を作ろうとする時、大学の同窓会が強力なネットワークになっていると知ったのは、 社会人になって何年も経ってから。ああ有名大学に進学するメリットとはこの事だったのかと、自分の知識と見識の浅さを嘆いても時すでに遅し。多摩大学で過ごした4年間には何の悔いも無かったのに、ここに来てぷすぷすと不満がくすぶっていた。

しかしここはアジア。日系企業の駐在員は5年もすれば交代して行く。官庁でも無い限り、同じ大学のトップが赴任して来る事はまれなのだ。大学ネットワークでとられた顧客は、人事の時期に営業して取り返せば良い。そして新しいトップに売り込みをする際は、商品の良さをきちんと理解してもらう。そうすればトップが代わって「お付き合い」が無くなっても、取引が切れる事は無い。

と、そんな発想に切り替える事が出来たのも、多摩大できちんと「学ぶ」「考える」トレーニングを積んで来たからかもしれない。3年生から所属したゼミでは、毎週1冊の課題図書を読みこなしレポートにしてまとめていた。当時は大変だとしか思えなかったこの課題も、自分でモノを考え行動に起こすというトレーニングだったのかもしれない。

仕事メインの海外生活を送る上で何より大切なのは、未知の出来事に出会った時、対処法を自分でを考えこなす能力だと思っている。「日本じゃありえない」と、日本人ネットワークの中でアジアを否定するのは簡単だが、現地スタッフからは厳しい目で見られているかもしれない。ましてそこから反日感情や嫌悪感が生まれていたとしたら、せっかくの「ネットワーク」も本末転倒ではないか。

4年間の大学生活で得るもの。それは人脈や友人であっても全然かまわないと思う。でも私が多摩大学で得た最大の資産、それは多摩大学が「学び舎」を追求していたからこそ、得られたものだった。決して短くはない4年間で蓄積したこの資産、輝き出すのはまさにこれからだと思っている。


 

第3回「彼女(彼)、大学の後輩なんだよね。」
内藤 史子(5期生)
2006年11月