同窓生連載インタビュー vol.4

人生観を変えるために挑戦し続けた起業家が熟成スイーツで勝負する理由

多摩大学の卒業生インタビュー第4弾。今回は、IT事業からタイでの飲食事業、そして熟成スイーツ事業へと次々に新しい挑戦を続ける株式会社ビースリー代表の田和充久氏にご登場いただきました。大学時代は「ほとんど授業に出なかった」と笑いながら語る田和氏。しかし、ボランティア、スカイダイビング、バイクでの日本一周、フィリピンの電気も通っていない村でのホームステイなど、「人生観を変える」ための挑戦を4年間続けた経験が、現在の事業家としての原動力になっています。森公美子さんも絶賛する熟成チーズケーキの開発秘話から、若い世代へのメッセージまで、熱く語っていただきました。

※対談場所は田和氏が営む大田区のチーズケーキ工場をお借りしました。


締め切り前日に決めた多摩大学への進学

田坂会長:今日はチーズケーキ工場に寄らせていただいてありがとうございます。普段から工場には?

田和氏:注文が入りすぎてどうしても人手が足りない時、週に1回か2回ぐらいは入ったりしています。

田坂会長:まずは学生時代の話から。どういう経緯で多摩大学に入ったの?

田和氏:正直に言うと、高校は進学校に通っていたもののまったく勉強しないで落ちこぼれて。でも大学に行くのは当たり前みたいな環境だったので、浪人していて。実は最初、他の大学に受かってそこに行く気満々だったのです。

田坂会長:えっ、そうだったの?

田和氏:そうそう。でも多摩大学の合格が後から来て。当時は携帯電話とかないので、連絡も取らずに海外に遊びに行っちゃっていて。親が「締め切りあるよ」って。ちょうど運良く前日ぐらいに家に帰って、親も「多摩大学、面白そうらしいよ」って言っていて。実家が東京の国立市だったので、一番近いしいいんじゃない?みたいな感じで決めました。

月1〜2回しか大学に行かなかった学生時代

田坂会長:大学時代の思い出は?

田和氏:本当に僕は大学に行ってなかったのですよ。月1回とか2回とかそんなレベル。でも今でも連絡取る人って、やっぱり面白い人間が多くて。多摩大学って「なり上がろう」じゃないけど、何か面白いことやろうみたいな人間と、ちょっとテンション落ちているような人間に結構分かれていたと思います。

田坂会長:授業にも出ないで何していたの??

田和氏:誰かが取っている授業のノートをコピーしてもらっていました。300円とか入れて「もう一部お願いします」って(笑)。みんないい人が多かったから、「分かりました」って2部コピーするのを3部にしてもらって。

人生観を変えるための4年間

田坂会長:学校に来てないときは何を?バイト?

田和氏:バイトもしてなくて、パチンコとかマージャンとか。でも大学生っていう4年間の中で、「人生観を変える」っていうのはどんなことだろうって結構考えていて。芸能人が「人生観がガラッと変わりました」とか言うじゃないですか。そんな変わることってあるんだって。

田坂会長:それで?

田和氏:人が「人生観が変わった」って言ったことを全部やってみようと思って。ボランティアやったら人生観が変わったって聞いたら老人ホームに行って、スカイダイビングしたら変わったって聞いたらやってみて、オーロラ見たら変わったって聞いたらアラスカ行って、日本一周したら変わったって聞いたらバイクで一周して。

田坂会長:すごい行動力だね。

田和氏:治験のバイトとかして何十万とかもらって、それを持ってオーロラ見に行ったり。実家に住まわせてもらっていたから、お金が出ていくことがなかったので。

フィリピンの電気も通ってない村でのホームステイ

田和氏:ホームステイがしたいって先輩に言ったら、「すごいホームステイ」を紹介してくれて。行ってみたらフィリピンの山奥の電気の通ってない村で。

田坂会長:えっ?

田和氏:タガログ語さえ通じない村だったのです。でも人間ってそこにいると本当にウルルン(※)みたいな感じで、だんだん現地語が分かってくるのですよ。「こんな現地語がわかってきて、俺はどうなるのだろう」と思いながら(笑)。でも帰る時は本当に感動して。
(※「世界ウルルン滞在記」1995-2007にTBS系列で放送された世界ホームステイドキュメンタリー番組)

田坂会長:それ、「すごい」の意味を勘違いしたんじゃない??

田和氏:そう!僕は「すごくいいホームステイがしたい」って言ったつもりだったのに、「すごいホームステイ」を紹介されたらしくて(笑)。でも若いからこそできる経験でしたね。

卒業1週間前に就職が決まる

田坂会長:大学卒業後は?

田和氏:留年していたので、卒業の1週間前まで就職活動してなくて。いきなり就職浪人になってしまうので、「人生ヤバくない?」みたいな。それでクイックという東証一部上場(現・東証プライム上場)の人材企業の新卒を受けに行ったら、社長が「面白いな、そんな奴がいるのか」って。「今中途採用しているから中途採用受けろ」って言われて、来週から来なさいみたいな。

田坂会長:5月後半ぐらい?

田和氏:そう、3月卒業して5月ぐらい。最初はアルバイトみたいな感じで、人材広告の営業をやっていました。

エキサイト株式会社からの独立、そしてタイへ

田坂会長:その後エキサイトに?

田和氏:28歳までだったら新しい場所に行けるんじゃないかと思って。エキサイトはインターネットのポータルサイトの会社で、いわばメーカーみたいなものなので、自分でルールを決められる。営業で3、4年やって、その後エキサイトブログとかの提携の責任者をやって、2007年に独立しました。

田坂会長:独立して何を?

田和氏:最初はIT関係の代理店とか、逆SEO(風評被害の元となるネガティブな情報を含むWebページの検索結果順位を下げるための施策)とか。でも「海外で勝負したい」と思って、ベトナムとかタイとか見て回って、最終的にタイでジンギスカン屋を始めました。

田坂会長:なぜにジンギスカンを?

田和氏:人に頼らないモデルがいいと思って。フランチャイズは面白くないし、じゃあお客さんが調理するモデルがいいだろうと。ジンギスカンなら仕込みと仕入れができればいいのではいかと。

コロナ禍で熟成スイーツへ転換

田坂会長:今は?

田和氏:タイでジンギスカン屋とベーカリーカフェの2店舗やってたいたのですが、コロナで大変なことになって。タイでは補助金まったく出ないし、お金も一切貸してくれない。それで新規事業としてスイーツを始めました。

田坂会長:なぜにまたスイーツを?

田和氏:スイーツが一番再現性あると思って。レシピ通り作れば味が安定する。うちは一つに絞ることで、日本全国に「それだけは食べたい人」がいるんじゃないかという考え方で、チーズケーキとガトーショコラに絞っています。

(田和氏が経営されている「完全グルテンフリー専門 熟成バスクチーズケーキ」)

熟成技術へのこだわり

田坂会長:熟成スイーツの特徴は?

田和氏:チーズケーキはグルテンフリーで、粉を入れていないのです。普通は粉を入れるとねっとり感が出るけど、ザラつくんですよね。うちは特別な熟成をすることで、ねっとり感を増して滑らかさを追求しています。

田坂会長:熟成って難しくない??

田和氏:熟成って基本的にスイーツ業界では敬遠されているのです。熟成、発酵、腐敗って紙一重で、腐敗の一歩手前が美味しいケースもある。うちはタンパク質を酵素が分解してアミノ酸に変化させることを熟成と定義していて、グルタミン酸が1.8倍増えてます。

大御所ミュージカル歌手も絶賛

田坂会長:この前、新宿の伊勢丹本店でも販売してましたよね?

田和氏:はい。実はミュージカル歌手の森公美子さんには、僕が普通に事務所に50行ぐらいの熱いメールを送って「無料で送るので食べてください」って。最初は「お断りします」って来たのですけど、事務所の社長が「熱い思いを感じたので森には伝えておきます」って。2週間後に「森公美子」って注文が入って、その後フジテレビの番組で紹介してもらいました。

「やれない理由」を探すより動くこと

田坂会長:すごい行動力だね(笑)

田和氏:動けば何かが起こるっていうのはすごく感じていますね。多摩大の学生にも伝えたいのですが、やれない理由を見つけるよりは、やってみて、どう先に行けるかっていう方が大事。やれない理由なんていくらでも出てくるので。

田坂会長:伊勢丹では完売したようで!

田和氏:はい。でも正直、最初は50個って言われて。「いらっしゃいませ」ってダイソーで買ったアクリルパネルつけて立っていましたよ(笑)。恥ずかしいけど、売れた方がいいので。

養護施設への寄付活動

田坂会長:不揃いになってしまったチーズケーキを養護施設に送っているんだって??

田和氏:10個貯まるたびに施設に送っています。児童養護施設って大体50人いることが多くて、10個あれば児童全員と職員の人、みんなで食べられる。誕生日会とかできるので。冷凍だからいつでも食べられるし、お礼状もたくさんいただいています。

同窓会への期待

田坂会長:最後に、同窓会に期待することは?

田和氏:「多摩大学卒業です!」と言いたくなるような学校になってほしいですね。無名だからこそ、絆が強いならすごくいい。東大の人は「どこの大学ですか?」って聞かないらしいんですよ。自分が一番いい大学だから、他の人に聞くと失礼にあたるって。悪い大学の人間は恥ずかしいから言わない。その両極端があるらしくて。

田坂会長:なるほど。

田和氏:多摩大学がもっと違う形で何かうまくつながると、小さいとか弱小とかじゃなくて、何か違うものが出るんだったらいい。忘れ去りたいみたいなんじゃなくて、思い出になるような。


【田和 充久氏 プロフィール】
経営情報学部3期生(1991年入学)。卒業後、株式会社クイックを経て1999年エキサイト株式会社(現・エキサイトホールディングス会社)入社。新規事業責任者として検索エンジンや通信回線事業を手掛ける。2007年に株式会社ビースリーを設立し、WEBマーケティングや海外食品事業を展開。近年は独自開発の熟成バスクチーズケーキのオンライン販売など、新しい領域にも挑戦を続けている。

【編集後記】 田和氏のインタビューを通じて印象的だったのは、「人生観を変える」ために4年間挑戦し続けた姿勢だ。授業にはほとんど出なかったというが、その代わりに得た経験の数々が、現在の事業家としての土台になっている。「やれない理由を探すより、どうやったらやれるか」を考える。この精神は、まさに多摩大学が育てたイノベーター精神そのものではないだろうか。熟成スイーツという新しい分野で挑戦を続ける田和氏の今後に注目したい。

インタビュー実施日:2025年7月 編集:11期・埜口輝之助(同窓会理事)