同窓生連載インタビュー vol.6

子どもたちにもっと深く関わりたい
〜企業人事、教育NPO、そして子ども食堂へ〜

国際物流会社の人事部、NPO法人を経て、現在は都内で子ども食堂を自ら運営する川野礼(旧姓は鮎川)さん。子ども食堂とは、地域の大人たちが主体となって、無料または低価格で子どもたちに温かい食事と居場所を提供する民間の取り組みだ。経済的に困難な家庭の子どもだけでなく、孤食や孤立を抱えるすべての子どもたちに開かれた「いてもいい場所」として、全国に一万ケ所以上が広がっている。グローバルスタディーズ学部の1期生でもある川野さんに、これまでのキャリアとこれからについて語っていただいた。


第一志望に落ちて、新設学部の1期生になった

田坂会長:まず、どういう経緯で多摩大に入学されたのか教えていただけますか? グローバルスタディーズ学部の1期生ということで、なぜ新しい学部をなぜ選んだのかなと。

川野さん:  入学したのが2007年(平成19年)なのですが、高校の頃から英語が好きで、「英語しか勉強したくない」ぐらいの勢いがあって。第一志望の大学が落ちてしまった時は第二志望を考えていなくて、いざ、どうしようと思った時に、ある大学に徹底した英語教育の新設学部ができるよ、しかも全て英語で勉強できるよっていう話を聞いて。目指していたものに似てるなと思って受験しました。
結果、受かったのは良かったのですが、その学部は藤沢市にあるのに、私は経営情報学部のある多摩ニュータウンで生まれ育ち、毎日小田急線で湘南台まで通っていました(笑)

田坂会長:それだけの理由で受けたんですか(笑)

川野さん:そうです(笑)。そうしたら、そこは一学年80人の小さな学部だったっていう感じです。


1期生の熱量、専攻は会計学

田坂会長: 入学して印象に残っているエピソードや、今の自分につながっているようなことはありますか?

川野さん:1期生だったこともあって、80人皆が結構面白くて。やっぱり立ち上げにいる人たちって、どこか似てるというか、ちょっと熱いものがある。変わった人が多いのですけど、そういう学友がいっぱいいた感じですかね。先生たちも個性的でそれも良かったです。一番お世話になったのは会計学のエリックホノベ(Erik Honobe)先生ですね。日本人より、日本語のことお詳しかったですよ(笑)。

田坂会長: ホノベ先生。日本人なんですか?

川野さん:いえいえ、外国の方です。まだ教授でいらっしゃいます。私は英語以外にも数字が好きだったので、それで会計の分野に進みました。

田坂会長:外国人の先生が会計学を教えていらっしゃる。それは驚いた(笑)ちなみに、学生時代は勉強以外にどんなことをされていたのですか? サークルとかアルバイトとか。

川野さん: サークルは一期生だから何もなくて。前から軽音をやってて、バンドをやりたかったのですね。アニソンバンドで。ただ、SGS(グローバルスタディーズ学部)ではなかなかできなくて、学外でバンドを組みました。バイトは聖蹟桜ヶ丘のエスニック系の雑貨屋さんで。すごく好きだったので、お香とか並べてましたね。(笑)あと奨学金も借りていて……。来週ついに返し終わるんです!(皆で拍手)

田坂会長:頑張ったんだなあ……。何年奨学金借りていらしたのですか?

川野さん:2011年からなので、15年ですね。やっとです(笑)。


就職氷河期。100社受けて1社。人事部で気づいたこと

田坂会長:充実した学生生活を送られたと思いますが、就職活動はどうでしたか?

川野さん:結構やりました。当時はリーマンショック、就職氷河期、さらには東日本大震災もあっていろいろ厳しかったです……。卒業式は震災直後だったのですが、簡易的な授与式だけでしたね。ちなみに就活はエントリーシートを100社ぐらい出して、実際面接に進めたのが30社くらい、決まったのは1社っていう感じでした。

田坂会長:どのような会社を中心に受けたのですか?

川野さん:英語で会計学を学んでいたので、商社とか物流とかの業界を考えていて、それで決まったのが国際物流の会社で、狙い通りの世界に入れたのですが、研修後の配属は人事部の採用担当でした。

田坂会長:新卒でいきなり人事って、それは優秀だってことじゃないですか。

川野さん: 当時はそんなこと知らなくて(笑)。みんな「1年目で人事はなかなかないよ」って慰めてくれるんですけど、それがいいのか悪いのかもわからなくて。国際貿易の会社なのに、仕事的に英語も全然使わないですし。

田坂会長: そこではどのくらい働いたんですか?

川野さん: 3年半です。人事の仕事をやってみたらこれが楽しくて、年間何百人もの学生に会って。その子が入社してくれて育っていってくれて、後輩もできてすごい楽しいとは感じていたんですけど……。ただ、選考で落としてしまった中に、どこにも引っかからずに苦労するだろうなっていうコミュニケーションの癖がすごく強い学生がいて、そこがとても気になってしまって。

田坂会長: どんなふうに気になったんですか?

川野さん:この子はどこに行くんだろう、どう生きていくのだろうって。幼少期のうちにいろんな人とコミュニケーションを取れていれば、選択肢が広がる人生になったんじゃないかって、勝手に仮説を立てていくうちに、人の児童期に携わる仕事をしたいなと思い始めて、退職しました。


NPOへ転職。「もっと現場にいさせてほしい」と直談判

田坂会長: 次はどちらへ?

川野さん: 10代向けの教育・居場所・伴走支援の社会インフラを提供しているNPO法人です。ただ最初はまた同じで、学校の先生にプログラムを売るっていう営業事務みたいなことを1年半ほどやっていました。やはりもっと子どもたちと近いところに移りたくて、上の人に直談判して。

田坂会長:直談判したんですか(笑)。

川野さん:そうしたら、ちょうどそのタイミングで足立区の委託が決まったんです。困窮世帯向けの学習支援と居場所を兼ねた施設を立ち上げると。そこで、「私、行きたいです」ってお願いして、ねじ込んでいただいて。ここで英語のクラスを持ちながら、ご飯も作って、終電まで働いて働いて。「まさにこれだ!」と思いましたね。めっちゃ楽しかったですよ。


ジレンマ、そして独立へ

田坂会長:そこからなぜ今のご自身の団体を?

川野さん:勤めていたNPOでは、子どもたちと連絡先を交換してはいけないし、距離を縮めてはいけないっていうルールがありまして。「スタッフを守るためだ」という理由は理解できるものの、目の前で困ってる子がいるのに、これ以上何もしちゃいけないというならば、自分でやってみようかなと思い立ちました。

田坂会長:やっぱり相手の人生に、ちゃんと関与したかったんですね。

川野さん:そうですね。立ち上げ方はこれまでの仕事である程度わかっていました。どこに行ったら野菜がもらえて、どこに行ったら優秀なボランティアさんがいてというのも分かっていたので、自分でもできそうだなと思って。


月曜日の「いてもいい場所」

田坂会長:今の施設はどんな感じで運営しているんですか?

川野さん: 毎週月曜日の午後4時ごろから開けていて、子どもたちが好きなタイミングで来る。今日もこの後ピンポンピンポンと鳴らしてやってきます(笑)。

田坂会長:事前に「行きます」とか連絡するんですか?

川野さん:特にないです。招待制で、私がこれまで関わってきた中で「この子はもっと大人と話した方がいいな」と思う子だけを呼んでいて、今は5歳から22歳まで12人ほど来てくれます。

田坂会長:前職のNPOとの違いは?

川野さん:あちらは広くて、しっかりした組織として多くの子に関わる。こっちは「泊まりたかったら泊まれるよ」って感じで。逃げてきたの?みたいなことも受け止めながら、物件探しや生活保護の申請まで一緒に動くこともあります。

田坂会長: それはすごい。大変なことですよ。前職のNPOとは今も連携してるんですか?

川野さん:はい。一つの団体だけではできないことがいっぱいあって。勉強が必要な子は前職のNPOの拠点に行っておいでと紹介したり、月曜以外にもケアが必要な子は別のこども食堂につないだり。前職のNPOを入れるとこの10年間で、多くのネットワークができましたね。


8年続けてわかったこと。新たな課題

田坂会長:本当に意義のある活動をされているわけですけれど、課題はありますか?

川野さん:いっぱいあるのですが……やっぱり継続することが一番大事で、継続したからこそ楽しい。今ちょうど種まきがやっと芽が出た子がいる時期なのです。でも、資金難から辞めていく方や団体も結構ありまして。「子ども食堂は稼いじゃダメなんでしょ?」、「子ども食堂ってファミレスになっているよね」という世の中のイメージを壊せるような何かを生み出したいなとずっと思っているのですけど、なかなか答えがなくて。

田坂会長:ここに通ってなかったらどうなっていたのだろうという実感はありますか?

川野さん:明らかにありますね。ずっと家に一人で、誰とも喋らずにご飯を食べて。親ともなぜか違う部屋でご飯食べてるとか、結構聞くんですよ。ご飯があるだけでもまだマシみたいな子もいて。

田坂会長:切実な話ですよね。たべるばのホームページ上に寄付の仕組みがありましたよね。多摩大学の卒業生も1万人以上いるので、そこへのアプローチも考えてみたいですね。同窓会としても、ソーシャル活動への支援の仕組みや、サブスクリプションを模索しているところだし、川野さんのお話を伺っていて、このような社会的投資は本当に必要だなと実感しました。お力になれたら!

寺島実郎学長にも支援いただいた

川野さん:ぜひ、そうしていただけるとすごく助かります!私も頑張ります!

田坂会長:あ、ピンポンが鳴った。子どもたちかな??

川野さん:いえ、食事作りを手伝ってくれるスタッフさんです!


【川野礼さんプロフィール】
多摩大学グローバルスタディーズ学部1期生。
2011年卒業後、内外日東株式会社に入社し、人事部にて主に人材採用活動に従事。
教育系NPO法人での勤務を経て、東京都足立区にて、子ども食堂の「たべるば」を設立。現在はたべるばの女将として、子どもたちの「孤食」と「固食」を減らし、地域の子どもや保護者が安心して来られる居心地のいい居場所を作る活動を展開している。

たべるばのInstagramはこちら。

【編集後記】
同窓会の運営メンバーは、任意団体時代から経営情報学部の卒業生が主体となってしまっている中、グローバルスタディーズ学部の卒業生と有機的に繋がって、一緒に新しい型のアルムナイを作りたいと思っていた。そんなタイミングで川野さんとの接点が生まれた。非営利活動に関わる卒業生や在校生も多い中、子ども食堂という形で社会課題に向き合う彼女の話を、ぜひ聞いてみたかった。

英語と会計学を学んだ学生時代、採用担当として何百人もの人と向き合った人事の現場、NPOで施設立ち上げを経験した10年。それらすべてが、今の彼女の活動を支える土台になっている。

「稼いじゃダメなんでしょ?というイメージを壊したい」という言葉が強く印象に残る。善意と情熱だけで回していては、いずれ担い手が疲弊して終わってしまう。運転資金の不足、物価高騰、人手不足など、活動を取り巻く環境は厳しい。子ども食堂が社会に根づくためにも、継続できる仕組み、すなわちサステナブルなビジネスとしての算段が不可欠だ。想いと算段を両立できる人が、この分野にもっと増えてほしいし、川野さんのような実践者が孤立することなく、地域や社会に根を張って支えられる日が来ることを願いたい。子ども食堂が「誰かの善意」ではなく、社会の基盤として当たり前に存在できますように。

インタビュー実施日:2026年4月
編集:経営情報学部7期生・鍋田修彦(同窓会理事・副会長)